海苔ささみピザパン

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帰宅

  道路には車のブレーキランプが赤く散っていた。私は横断歩道の白いペンキを踏みつけながら、ずり落ちてきたリュックサックの肩ひもを元の位置に戻す。伸ばしすぎた髪が首にまとわりついて少し不快だ。世の中はどうやら夜だった。ぶっ壊れたクーラーから出てくるみたいなぬるくて埃っぽい風が私を包んではほどけていった。横断歩道を渡り終わり、右へ曲がる。信号が切り替わり、再び動き出した車たちがスイスイと私を追い越していく。 

  友人と映画を観た帰りであった。路上では女性シンガーが何か歌っていた。前を通りかかるときにちらりと目をやると、彼女と目が合ったような気がした。どこもかしこも人だらけだった。隣を歩く男子学生の集団は終始楽しそうにはしゃいでおり、彼らのうちの1人は隣を歩く仲間の背中をほとんど奇声に近い笑い声をあげながらバシンと強く叩いていた。私はひとり自宅へと向かっていた。ペットボトルやダンボールや溜まった洗い物、その他ごちゃついた生活にまみれた自室である。街はさざめきに溢れていた。人々の笑い声や話し声が混ざり合ってうねりとなり、都会から個を失わせていた。その心地よい均質な流動体に身を任せ、私は人々とともに駅舎へとなだれ込んでいった。

  さっきの女性シンガーの顔はもう思い出せなかった。