海苔ささみピザパン

いろいろです Twitter@kame_kau

他人の生活

  レジ打ちをしていると、いろんな客がそれぞれの生活を見せつけてくる。それらは肉の色をしていていつもグロテスクだ。

  太った人がカップラーメンをカゴ2つに山盛りにしてくる。若い男の集団がビールを箱ごと何十本も買っていく。小銭を探す手も覚束ないおじいさんがアダルトグッズを買っていく。親に連れられた幼児が満面の笑みでお菓子を持ってくる。

  私は無心で、マニュアルに定められた文言を言い、バーコードを読み取り、商品を袋に詰める。ありがとうございました。客は帰っていく。車に乗って、自転車に乗って、あるいは徒歩で、帰っていく。

  その後ろ姿を見ながら、私はいつも必死で声を抑えている。「おまえらもしかして人間か? キモ」。叫びたいのを我慢して、口の中でなるべく小さく呟く。無理やり声を引っ込めると、喉から「エ゜゛」みたいな音が出てちょっとウケる。無数の客のとめどない来店。いらっしゃいませ。おい。おまえらもしかして人間か?

  生活。生活があるのか。あなたたちにも。食べ物とか、トイレットペーパーとか、洗剤とか、買ってるもんね。コンドームと妊娠検査薬は紙袋に入れます。客が帰っても、閉店しても、レジの前には無数の生活の気配が留まり続けているような気がする。キモ。おまえらもしかして人間か? 幾度となく飲み込まれた言葉は体液と混ざり合って身体を循環し、四肢の末端に沈殿していく。

 

  ……

 

  人間ども。