海苔ささみピザパン

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(小説)さよなら

 ヤナギハさん(https://twitter.com/yanagihatei)との連歌で出来た一首の短歌に着想を得て書きました。このブログの公開を快諾してくださったヤナギハさん、ありがとうございます。

 

 

 

オブラートふやけていくよどうしよう さよならの刃(やいば)飲み込めぬまま

 

 私たちは地元のショッピングモールのフードコートに向かい合って座っていた。場所を決めたのは私。これから起こることが何なのか、話があるって彼から連絡があったときにすぐ分かった。彼から連絡が来るのは本当に久しぶりだった。付き合い始めて1年くらい経ったころから全然連絡をくれなくなって、それでも初めのうちは私の方からこまめにおはようとかおやすみとか送ってたんだけど、彼からのあまりに素っ気ない返信にいちいち傷付くのに疲れてやめた。それで昨日、彼から話があるって連絡が来たとき、私は「ああ、別れ話だな」ってすぐ分かったから、このフードコートを指定した。ここはすごく賑やかで人もたくさん通るから、この場所でなら別れようって言われても泣かずにいられるかなって思った。

 向かいに座っている彼はさっきから私と目を合わせようとせずに机の上のエッグチーズバーガーばかり見ている。あ、マック食べようよって提案したのも私。とにかく悲しい雰囲気になってほしくなかったから、別れ話になるべく相応しくない場所でなるべく相応しくないことをしながら彼の話を聞こうって思ったの。でも彼は全然話を切り出そうとしない。早く言ってくれないと、頑張って我慢してるのに、私悲しくなってくる。話って何?って言おうとしたけどダメ、ちょっとでも喋ると泣いちゃうかもしれない。私はポテトをふたつつまんで食べた。ポテトと一緒に悲しい気持ちも飲み込んじゃいたくて、あんまり噛んでないままのポテトを無理やり飲み込んだ。

 私がストローでコーラを飲んでいると、彼が咳払いをして、ゆっくり口を開いた。

「あのー、あのさあ」

 ハンバーガーを見つめてるままの彼が言った。

「別れてほしい」

 その言葉を聞いた瞬間、私の心臓はビクンって跳ね上がって、頭の中は一瞬真っ白になった。でも、うん、知ってた。昨日からずっとこうなること分かってた。だから、受け入れられるように、悲しくならないようにっていっぱい考えて、昨日のうちにいっぱい泣いといたのに、なんで私こんなに悲しいんだろう、なんで私また泣いてるんだろう。全然受け入れられてないじゃん。

 彼の短いさよならは包丁みたいに尖ってて、さっきのポテトみたいに簡単には飲み込めそうもない。きっと、彼は私のことを思って必要最小限の言葉で言ってくれたんだと思う。それなのに、さっきの言葉もまだ全然飲み込めてないのに、馬鹿な私は聞かなくてもいいことを聞いてしまう。

「何で?」

 彼は、下を向いたまま、小さい声で、でもはっきり言った。

「好きじゃなくなったから」

 私は震える声で「そっか」て言うだけで精一杯だった。私はボロボロ泣きながらポテトを無理やり喉に次々詰め込んでいった。彼の言葉はびっくりするくらい痛くて、もしかしたら一生飲み込めないんじゃないかって思うともっと悲しくなってきて、涙が意味分かんないくらい落ちてった。下を見たら、ハンバーガーについてた紙ナプキンが私の涙で濡れてふやけてた。こんなに泣いてるんだ、私。

 彼は一回も私の方を見てくれなかった。