『スマイル』
今朝の話です。
7時40分、私はバイト先へ向かうために家を出ました。昨夜は3時頃まで寝付けませんでした。7時20分になんとかベッドから這い出て、半開きの目で洗顔、着替え、化粧もそこそこに玄関へ。冷蔵庫からひっつかんで来たウィダーインゼリーを気合いで飲み込みながらマンションのエントランスを出ました。
この時間帯は小中高生の通学時間と重なります。大小さまざまなかたまりとなった学生たちは、淀みながらも毎日決まった方向へと流れて行くのでした。
私は3〜4人の女子高生らしき集団とすれ違いました。彼女らは声を合わせて歌いながら歩いていました。
いつでもスマイルしようね
とんでもないことがおきてもさあ
かわいくスマイルしててね
なんでもない顔してでかけりゃいいのさ
……と。ホフディランのスマイルという曲です。最近若い女優さんがカバーしたので、それで知っているのだろうと思いました。ひとかたまりの女生徒たちは、正確な半径を保ちながら、そしてやはり時たま淀みながらも、私の方へと近付いて来ます。
その歌声は私の感情を大きく揺さぶりました。彼女らだけを包んだ透明で巨大な泡(あわ)が……と、そこまで考えたところで彼女らは私の横を通り抜け、歌声は後方へと遠ざかって行きました。
ねぇ 笑ってくれよ
キミは悪くないよ
……。
未だ光の宿らぬ寝起きの眼を引きずりながら、私は朝の挨拶の脳内シミュレーションを開始していました。
おはようございます、おはようございます、おはようございます…
(スマイル/歌 森七菜/作詞作曲 渡辺慎